『少林サッカー』
公開:2001年7月12日(香港)
上映時間:109分
監督:チャウ・シンチー
製作:チャウ・シンチー、イェング・クウォクファイ
脚本:チャウ・シンチー、ツァン・カンチョン
音楽:レイモンド・ウォン
出演:チャウ・シンチー、ヴィッキー・チャオ、ウォン・ヤッフェイ、モク・メイラム、ティン・カイマン、チャン・クォックァン、ラム・ジーチョン、ン・マンタ
【あらすじ】
かつて「黄金の右脚」と呼ばれながら八百長に関わった挙句、暴徒化した観客たちによってその足を潰され落ちぶれていたファン。ある日、貧乏ながら少林拳を広めようとするシンと出会い、その「鋼鉄の脚」の人間離れしたキック力に目をつけた彼はシンの兄弟弟子たちも勧誘してサッカーチーム結成、大会へ出場し優勝を目指すのだった…
目次
キャプテン翼をリスペクトの意を込めてコメディ化するとこうなる
日本の漫画大好きのチャウ・シンチー監督が『キャプテン翼』に感化されて自分流にサッカーをコメディエンターテイメント作品へと昇華させたのが『少林サッカー』だ。
紙の上でしかできなかったアクロバティックなプレーやネットを突き破るほどの強烈なシュートをCGという手法を手に入れたことで映像でも表現できるようになったわけだが、『少林サッカー』では現実ではあり得ないほどのプレーをすればするほど「笑える」のだから、裏を返すと『キャプテン翼』というマンガも見る角度を少し変えてしまうとコメディに見えてくるのかもしれない。
少なくともチャウ・シンチー監督はそう捉えたのだろう。
どこまでもおバカだが努力・友情・勝利
ありえねぇアクション、細かいところまで笑いにしようとする演出、『キャプテン翼』が全力でサッカーをしているなら『少林サッカー』では全力でバカをしている。
どこを切っても「バカだな」と思え、ひたすらコメディ部分ばかりが注目されるこの映画であるが、冷静に見てみると週刊少年ジャンプの鉄則「努力・友情・勝利」で構成されていることに気づく。
貧乏や貧富の差という社会問題を軸にし、いかにしてその不遇から抜け出すかを「努力・友情・勝利」で啓蒙しているのだ。
ただ、そう啓蒙しながら主人公たちの身体能力がチートなものだから、その「努力・友情・勝利」すらも地盤がなければ成功へと繋がらないと皮肉っているようにも見えなくない。そのせいで「努力・友情・勝利」もまた「一般人にはありえねぇ=コメディ」に見えてしまうことも否めないだろう。もしかしたら監督も、それを理解した上で脚本を作り演出しているのかもしれない。
では、どんな時に見ればいい映画なのか?
笑わせようとしているのかサクセスへの道のりを啓蒙しようとしているのか、それとも努力も友情も実はあまり意味が無いと皮肉っているのか、訳がわからなくなるこんな映画は、果たしてどのような精神状態の時に観るのが良いのか?
いや、それは単純明快で、現在の地位や立場を不遇と思いながら自尊心すらも忘れつつある時に見る映画であろう。
色々とひねくれた視線でこの作品を難しく解釈してみたが、シンプルに笑って明日の活力にすれば良いのである。
考えてみても、漫画大好きなおバカな男でもこうして映画を作れて、それがヒットしてしまっているのだ。人生何がサクセスへと繋がるのかわからないのだ、わからないから笑える時に笑ってしまって、明日にはまた友情を大事にして努力できれば、それだけでも満ち足りた生活を送れるものだろう。
その充足こそが幸福と考えれば、それはそれである意味「勝利」であろう。
外で努力できる(働ける)人間なんて、家の中ばかりの猫の目には羨ましいもんですよ。
まあ、この映画を観ていると、ネコでもサッカーができるんじゃないかとそんな気も起きますけどね。
【参考動画】