映画ソムリエを目指す猫

〇〇なときに観たい映画をレビューしており候。

『スウィングガールズ』 音楽素人がジャズを始めたいと少しでも思った時に観たい映画

スウィングガールズ

公開:2004年9月11日

上映時間:105分

監督:矢口史靖

脚本:矢口史靖

製作:亀山千広、島谷能成、森隆一

音楽:ミッキー吉野、岸本ひろし

撮影:柴主高秀

編集:宮島竜治

 

あらすじ

山形のとある高校、夏休みに補修を受けていた女子生徒たちが、補修を受けたくない一心から野球部の応援にいく吹奏楽部用の弁当を届けにいくことに。その道中遊んで弁当を腐らせてしまい、それを食べた吹奏楽部が集団食中毒になると、ピンチヒッターとして楽器演奏無経験の彼女たちがビッグバンド・ジャズをすることになるのだが…

 

レビュー目次

 

 

矢口史靖マジック

それまで何かに挑戦することもなくダラダラと生活してきた音楽経験もない女子高生たちが演奏することやジャズの楽しさに目覚めジャズバンドを組み始める青春ものであるが、メンバー同士の激しいぶつかり合いだとか、くっさいくらいの友情物語だとか、大会で優勝するとか、そんな少年マンガのスポ根モノやハリウッドの青春映画のような高い熱量を持った展開は基本的にない。

これは矢口史靖監督作品ほとんどに言えることで、今作でもその矢口節とも言えるマイペースな調子で物語が進行する。

さらに今回の主人公たちは、夏の補修も口実を作ってサボろうとする本質的に真面目ではない(おまけに飽き性な)女子高生たちときたものだから、そのマイペースっぷりはさらに拍車がかかっていた。

それはそれで熱量があると言えばあるのだが、彼女たちのノリは「はしたない」と言うか、おしとやかさを微塵も感じさせないものばかりなので、見ていて「引きつり笑い」ばかりを起こしてしまう。

ただ、本来女子高生、特に徒党を組んだ女子高生なんてあんなもので、たとえ公の場でおしとやかにしていても家や仲間内ではダラダラしているものである。矢口監督はそのぐぅたらぶりやダラダラを、つまりは女子高生の素の部分を隠すことなく、しかも笑いとして提供してくれるので、日常を見ているような気楽な気分で作品を見ることができた。

そう気楽に見れるものだから、ちょっとした出来事や小さなイベントでも、不思議なもので「青春」をしていると感じてしまい、気がつけばじんわりと感動してしまっているのだった。

ハリウッド映画では感動をわかりやすく生み出すために、感情の起伏を作ろうとし、そのためにジェットコースターのような激しい展開の脚本になりがちだが、矢口監督はその逆のことをやっているわけだ。作品全体の熱量を予め低くすることで、小さな波でも感情の起伏として受け止めれるのだ。

これは矢口監督の一つのマジックだと思う。

のんびり暮らしていると日常の些細なことでも感動になる…胸キュンとか興奮とは程遠いものだが、家猫の私のような普段着感覚で見れる映画が好みである者からすると、しっくりはまって落ち着くものである。

 

全体の熱量は低めでも女子高生たちは身勝手な子供のようにトラブルばかり

なにか巨大な哲学を持ってジャズバンドに打ち込むとか、そういった熱量が一切ないこの映画。ひょんなことから代打でやってみたら楽しくて、吹奏楽部が戻ってきたことでもうやらなくていいと言われると悲しくなって、やりたいと思うから自分たちで中古の楽器を買おうとしたりして…とまあ、動機や行動や感情の起伏がもう子供のそれだ。殊勝だとか健気だとかそういう言葉とも(表面上)無縁で、思いつくままほとんど考えなしに動いているからトラブルも多い。

しかも、お金がなくて楽器が買えないとか、中古で買った楽器がボロボロで直してもらわないといけないとか、ジャズの練習をする以前の段階でトラブっている。やっと楽器を手に入れてジャズの練習をまともに始めるのは本編の半分あたりに達した頃だ。

そんなもので本当にジャズバンドの話なのかと首を傾げたくなるくらいなのに、トラブっている本人たちは妙に行動力を発揮しているから、彼女たちから変な熱量も感じ取ってしまう。

 

サークル活動としてゼロからジャズバンドを作りたい人に

全体的に熱量が低いと言っても冷めているという意味でもなく、ちょっとズレたところで大人の良識を超えるくらい彼女らスウィングガールズたちはアクティブである。

プロのジャズミュージシャンになろうとしているストイックな人からするとふざけた連中にしか見えないだろうが、部活やサークルとして一から、いや楽器を買うところからだからゼロからジャズバンドを作ろうとしている素人からすると、この映画はとても参考になる。

特に何が参考になるかと言えば、「ジャズバンドってあんな気楽な動機から始めていいんだ」と思える点だ。

また、作中では途中まで5人+2人の計7人でしか動いておらず、ビッグバンドにしなくてもジャズを楽しめると思える点も、これからジャズをやってみたいと少しでも思った人には大いに参考になる。

ついでに田舎でもできると思わせてくれる点もポイントだ。

そして、大きな大会で優勝とかそんな勝利を追求する必要もなく、発表会で演奏して会場と一体になれただけで感動できるんだと教えてくれる映画でもある。

いろんな角度から精神面でジャズ入門へのハードルを下げてくれているステキな作品なのだ。

ジャズそのものも、それくらい懐の深い音楽なのだろう。

 

 

【参考動画】


映画「スウィングガールズ」劇場予告