公開:2004年5月8日
上映時間:138分
監督:行定勲
原作:片山恭一
製作:本間英行
音楽:めいなCo.
撮影:篠田昇
編集:今井剛
【あらすじ】
一緒に暮らそうと引っ越しの準備をしていた律子は荷物の中からむかしのカセットテープを見つけた。聞いてみると子供の頃に聞いたことのある少女の声が収録されていた。当時のことを思い出した彼女は、台風が近づく高松へと向かう。その姿をテレビの台風中継を通じて目にした朔太郎も故郷・高松へと向かうのだった。アキとの記憶を思い出しながら…
レビュー目次
冴えない男に惚れてくれる高スペックの同級生
ヒロインのアキはスポーツ万能で成績優秀で文化祭の演劇で主役に選ばれるくらい容姿もよければ、校長先生の葬式で弔辞を読むくらいしっかり者だ。性格も悪くない。漫画『タッチ』で言うと南ちゃんみたいな高スペック女子高生だ。
劣等感バリバリの奴にはグサッと刺さる、そんな学園の優等生が特に何か秀でているわけでもない、平々凡々の冴えない主人公に向こうから好意を抱いてくれるのだから、マンガや恋愛シミュレーションゲームみたいな話だ。
この映画は何度も見たが、どうしてアキは朔太郎のことが好きになったのか、その点がいまだにわからない。
わからないけど好きになってもらわないと物語は進まないし、物語は面白くならない、なんて理屈でいつも納得している。
まあ、冴えない男に天使が振り返ってくれるって、それはそれで確かに夢がある。世の中の冴えない男には希望を持たせてくれる設定だろうし、希望を持たせた分、読んでくれたり視聴してくれる人も増えるだろう。
我ながら編集者側の都合でそうなったと言わんばかりの理屈だ。
でも白血病で死んでしまうヒロイン
せっかく学園でも高スペックな同級生が冴えない主人公に恋をしてくれて二人はめでたく付き合うことになるのに、その恋人がまさかの白血病だったという、韓国ドラマばりの悲しい展開を迎える。
冴えない男たちを喜ばしといて、いっきに突き落とすのだ。
世の中の冴えない視聴者からしても「何だよ」といった展開であるが、それでも世の中の冴えない男たちというのは意外と単純なもので、そんな悲劇にすぐに同調し同情して、まるで自分も悲劇の主人公であるかのように朔太郎に感情移入していくものである。
この映画で涙したという観客が何人もいるのだから、人間というのは基本的に感情移入しやすい生き物なのだろう。少なくともこの猫の目にはそう映る。
恋愛の育み方がオシャレ
まあ、とりあえず悲劇やらはひとまず置いておいて、アキと朔太郎の恋の育み方に注目すると、それがまたとてもオシャレだ。
どっちが先にラジオでハガキを読んでもらえるか競ってみたり、声をテープに録音して交換日記にしてみたり、写真館の重じぃの校長先生との恋愛話を聞くために墓場に忍び込んで遺骨の一部を持って(盗んで)きたり、無人島に二人っきりで一泊できたり、そこで見つけた古いカメラのフィルムを現像してみたらオーストラリアの「ウルル」(エアーズロック)が写っていたり、忘れられるのが恐いからとウェディング姿で写真を撮ったりと、恋愛マンガや恋愛小説とかいっぱい読んでいる女子が好みそうなオシャレで思い出に残る恋愛をしているのだ。
しかも男からすると、そのほとんどはアキのほうがイニシアチブをとって、彼女の方から恋心の醸成に動いてくれているのだから、こんな有り難くて恋愛ゲームのような展開もないだろう。
恋人との付き合いが倦怠期を迎えているなと思う時に
こんなオシャレでしかも思い出に残るような恋愛の育み方をしてくれるこの映画だけに、恋人と倦怠期を迎えている時に観たいものだ。
恋人との付き合いがマンネリ化していると思っているなら、劇中にあるような恋愛の仕方を参考に、二人の間が盛り上がるような、思い出に残るような小さなイベントを現実でも試してみればいいのだ。
さらに言うと、最後はアキが死んでしまうという悲しい物語であるので、死にゆくアキのために何でもしようとする朔太郎にシンクロして共感して、そこから転じて今の自分の恋人もいつか死ぬかもしれないと思い込めれば、今の恋人を大事にしてやろうと少しは思うことだろう。その少しの思いやりが、カップルの倦怠期を抜け出すきっかけになるのではないかと思うのである。
また、倦怠期を迎えているカップルで一緒に見るというのも一つの手だ。そのオシャレな恋愛の仕方をカップル共に吸収して、ともに相手のことを大事に思うようになれれば、マンネリ化脱出のためにはより効果的であろう。
目指すは「世界の中心でカップル二人して愛を叫びあう」だろうか。それくらい充実した思い出づくりをできるカップルなら、倦怠期なんて完全に抜け出しているだろう。
注意点
ただし、注意点としてはカップルのどちらかでも、この映画の編集者の都合で決められたような、あまりに漫画チックな現実ではなかなか有り得そうにない無理のある設定や展開に共感できず感動も出来ない者がいるなら、カップルの倦怠期脱出のためにこの映画を視聴するのは控えたほうがいいかもしれない。「なに、私、病気になった方がいいの?」なんて冷静に分析されて言われた日には、倦怠期脱出どころかますます冷めてしまいそうだからだ。
とはいえ、この映画を観てみないことにはこの映画の主人公達に共感できるか感情移入できるかはわからないので、結局観てみるしかない。それで冷めてしまうようなカップルの仲であったなら、それはもう長くは続かない間柄であったと諦めるしかないのであろう。
もし諦める際は、作中最後「ウルル」へと現在の婚約者と向かったように「後始末」を参考にすれば良いだろう。
あしからず。
【参考動画】