公開:1998年10月10日(日本)
上映時間:120分
監督:磯村一路
原作:敷村良子
脚本:磯村一路
撮影:長田勇市
音楽:Lee-tzsche with penguins
編集:菊池純一
出演:田中麗奈、清水真実、葵若菜、真野きりな、久積絵夢、松尾政寿、中嶋朋子、他
【あらすじ】
1976年、四国は愛媛県松山市。進学校に入学することになったものの、姉と比べて器用でも成績も優秀でもない篠村悦子は特に打ち込めるものがなかった。高校入学後、ボート部に入りたいと思ったものの女子部がなかったので、メンバーを集めて自分で作ることに。ただ、ボート初心者というだけでなく運動部の経験すらない彼女たちは試合になってもドンジリ。ちゃんとしたコーチがほしいと思っていたところ、元日本代表ながらやる気のない入江晶子がやってくるのであった…
レビュー目次
青春を謳歌するかしないかの分かれ目
人間、特にその思春期やいわゆる青春を謳歌できる時代に、自分のやりたいことが何なのかわからないということはままある。
やりたいことがあっても、それが必ずしもできるとは限らず、できないことで諦めてしまうということも少なくない。
諦めることは簡単だが、諦めたところで自分には何も残らないことに気づくと、結局それをやりたいと思って悶々とするものだ。
その悶々を引きずって日々を過ごすか、それとも自分で何かアクションを起こすかが、青春を謳歌する、また人生を楽しむ一つの分かれ目であると、この猫の目には思われる。
ないなら作ってしまえばいい
同作の主人公は、学業の成績も悪く器用でもなく、特に取り柄もない落ちこぼれの部類に入るのかもしれないけれど、それでも「ないんじゃったら作ればええんか」と女子ボート部を自ら作ってしまった。
メンバー五人全員、ボート経験どころか運動部経験がなくても、やりたいと思って部を作り、作りたいと思ってメンバーを集め、負けて悔しいから練習をするのだ。
その根性には感心する。
彼女たちを見ていると何事も「ないなら自分たちで作れば良い」と思えてくる。
発想の転換をさせてくれるのだ。
また、どこかのんびりとした15,16歳の小娘である彼女たちでも、自分たちで部を作ってしまうのだと思えば、実行への勇気ももらえる(すごい失礼な言い方だ)。
さらには、試合に負けても、腰を痛めてしばらくボートができなくなっても、目標を作ってひたすらボートに打ち込み、それによって五人の絆も、コーチや後輩たちとの絆も深めている姿には自分たちで一から作り上げる楽しみまで伝わってくる。
もしかしたら当人たちにはそれほど自覚はないのかも知れないけれど、彼女たちのやっていることは青春の謳歌そのものだ。
こちらとしては羨ましいくらい充実して見えるのだ。
ゆったりした映画
この映画は、高校1年入学から2年生の冬の前までを描いているが時間の流れがどこかゆったりしていて心地よい。
彼女たちに青春謳歌の自覚がないのかもしれないと見えたのも、やはり彼女たちが主人公を筆頭にどこかのんびり、ゆったりしているからだ。
彼女たちは熱苦しいくらいの熱血少女たちでもない。
作中のドラマ要素もあるのかないのかわからないもので、少なからずハリウッド映画のあのジェットコースターのような起伏の激しいものではない。
愛媛は松山の穏やかな情景と、そこに住む普通の少女たちが送る、ありふれた実に庶民的な青春の一風景だ。
おそらく青春「ドラマ」とも言えないかも知れない。
映画を見るとき、日頃の鬱憤を晴らす意味でも、より非現実的で爽快な作品(例えばアクション)を観るようにしているという方にとってはまったりのんびりすぎて退屈になるかもしれないだろう。
作中でも、腰を痛めて温泉で療養している悦子がそこでコーチと偶然出会い、二人でかき氷を食べながら「つまらんなぁ」とぼやくシーンがあるけど、この猫の目には監督の自虐にも取れて笑ってしまった。
ゆったりで退屈は現実に近い
そのゆったりさは、言ってしまうと現実に近いというものだ。
現実なんてものは基本的に退屈で、のんびりしたもので、自分の意志を働かせて何かしらの行動を起こさない限りは一生その「つまらんなぁ」に埋没するものなのだろう。
そして同時に、その何かしらの行動というものも、別に無闇やたらと熱くなってノリと勢いばかりを高めてする必要もないと、この映画は教えてくれているようでもある。
あんな普通の小娘たち(再び失礼)でもクラブを自分たちで作って、青春を彼女たちなりにちゃんと謳歌出来ているのだ、難しいことはないのであり、難しく考える必要もないものである。
がんばっていることが充足
全日本代表だったがいまでは退屈そうにしているコーチを見ていても、トップアスリートになれても必ずしも幸福というわけではないし、全員がそれを目指す必要もないだろう。
身の丈にあった目標を定めて、一つ一つがんばっていけばいいのだ。
作った部にて大きく劇的な結果をたとえ残せなかったとしても、作ったものを頑張って続けたことだけで青春であり、これからもがんばっていけば、人間はずっと充足して生きていけるのである。
この映画を観ていて、そう感じ取れた。
ちなみにこの映画は湖面の映像がキレイだ。
Lee-tzscheが歌う主題歌も庶民の同情を誘う。
がんばっていると、人からこんな感じに観てもらえる可能性もある。