『おもひでぽろぽろ』
公開:1991年7月20日
上映時間:118分
監督:高畑勲
脚本:高畑勲
原作:岡本螢、刀根夕子
製作:鈴木敏夫、宮﨑駿
製作総指揮:原徹
音楽:星勝
制作会社:スタジオジブリ
【あらすじ】
1982年の夏、東京生まれの東京育ちで小学生の頃から田舎に憧れていた27歳のOL岡島タエ子は、休暇を取って山形県にある姉の旦那の親戚の家へ二度目の滞在させてもらうことになった。案内してくれたトシオら親戚の方たちと田舎を体験する中、彼女は節々でふと小学五年生の頃を思い出すのであった。まるであの頃の自分を連れて一緒に旅をしているように…。
レビュー目次
悠長で呑気な自分探しの田舎旅物語
個人的なことを言えば、ジブリ作品の中で一番好きな作品がこれだ。
確かにナウシカも好きだしラピュタも好きだ。冒険活劇としてどちらも名作だと思っている。
でものんびりな家猫の私からすると、この映画の牧歌的で懐古的で悠長で呑気な自分探しの田舎旅物語の方が性にあう。
特別、作品として何かが秀でているわけでもない。登場人物も平凡で田舎に行けばどこにでもいるような庶民たちだ。都会の者からするとちっとも洗練されていないと思うことだろう。
田んぼや畑ばかりの田舎を見て、楽しそうなところがないと思うかもしれない。
物語の起伏も特になく、ハリウッド映画のジェットコースターに乗ったようなハラハラも勢いもいっさいない。
小学校時代に考えていたことなんてこんな感じだったなぁ、と懐かしくなるくらいの映画だ。
しかも、主人公が66年くらいに小学生をしているので、平成生まれの現代の二十歳過ぎには世代が違いすぎて文化も価値観も異なるだろうから、この懐かしさを共感できない可能性もある。
子供の頃からスマホを触る機会がある世代からすれば少しもスマートではないだろう。
それでも共感
かくいう私だって主人公と同世代ではない。生まれも違えばそもそも猫だ。
それでも共感してしまっている。
一度共感してしまうと、この映画のそれら洗練されていないのんびりさが胸にしみた。
それがまた心地よかった。
世代によっては理解されないだろう云々と言っておいて申し訳ないが、この心地よさを発見すると、この映画にも何かしらの普遍性があるのだろうと思えてならない。
『ひょっこりひょうたん島』を見たことがなくても、その登場人物が発したセリフに子どもながらに共感するという感覚は理解できるのである。
思えば、私がこの映画を初めて見たのはまだ子供の頃であった。
正直に言えば、その頃の私にはこの映画をほとんど理解できなかった。
回想シーン(小学生時代)ではアニメっぽいのに、現在のシーン(27歳)では表情の描き方が妙にリアルだという点も受け付けられなかった。
それが、お酒を舐めれる(飲める)歳になって改めて見てみると、その表情のリアルさへの拒否反応もなくなっていて、理解できる点をいくつも見つけることができた。
主人公への感情移入
この「理解できる」ところが積み重なることで、いつの間にか主人公の女の子に感情移入をしてしまっていた。
作中、回想シーンの中で、あべくんという名の家が貧乏な男の子が転校してくる。
不潔な感じがしてみんなに嫌われながらも、タエ子の前ではすごんで見せていた子だ。
親の都合で再び転校することになったあべくんが最後にクラスのみんなと握手することになったときもタエ子とだけは強がって握手をしていなかった。
その子の態度がずっと気になっていたタエ子は、何事にも、いま自分が体験している田舎というものに対しても、表面だけを見てその本当の苦労もわからずに知ったかぶりをしていただけだとの自己嫌悪を抱いてしまう。
私は特に、タエ子のその知ったかぶりへの罪悪感に感情移入をしてしまった。
そしてその話を聞かされたトシオの「タエ子さんのことが好きだったんでしょ」との解釈に主人公同様、気持ちが救われた気がした。
他愛のない映画なのに
こういった少年少女時代の心の機微に関する罪意識なり反省というものは、どの世代でもあるのではないだろうか?
私はこの作品を観ていてそう思った。
そしてそう思えたことで、どんな世代であれみんな同じような「情」というものを持っているようにも思えた。
すると不思議なもので他人に対して優しくなれる気がしてきた。
トシオの解釈に救われた気がしたのではなく、この気付きこそが、私にとっての救いであったと今では思う。
生きていると他人との関係で荒(すさ)みたくなる瞬間というものが何度も訪れる。
人生やってられないと思うこともある。
そういうときにこの映画を観ると、タエ子に同調しながら自分を省みることができる。
自分を省みると、改めて自立の気力を回復できるのである。
他愛のない映画のようで、いや、実際他愛のない映画なのに、どの作品よりも心を洗う作用を働いてくれるがゆえに、私はこの映画をジブリの中で一番好むのである。