『阪急電車 片道15分の奇跡』
公開:2011年4月29日(日本)
上映時間:120分
監督:三宅喜重
脚本:岡田惠和
原作:有川浩
音楽:吉俣良
撮影:池田英孝
編集:普嶋信一
出演:中谷美紀、戸田恵梨香、南果歩、谷村美月、勝地涼、有村架純、玉山鉄二、高須瑠香、芦田愛菜、宮本信子、他
【あらすじ】
片道15分の阪急電車に、ある日ウェディングドレスを着た女性が乗車していた。不思議がる周囲。おばあさんに連れられていた女の子は「お嫁さんだ」というが… 大人たちは察しがつく、そうでないことを… 阪急電車を利用する乗客たちが織りなすハートフルな群像劇。
レビュー目次
良識を一時的に捨てた復讐の白ドレス
結婚の準備もしていた恋人が別の女、しかも会社の後輩を妊娠させてそっちと結婚するから別れてくれと言ってくる…
これくらいなら世の中でも聞かない話ではないが、後悔させるため披露宴に呼ばせてウェデイングドレス姿で出席するというのはなかなかない。
普通、良識というものが勝ってできないものだ。
だが、結婚の準備までしていた相手がいながら別の女(後輩)を孕ませた相手の男、ならびに計算ずくで生でヤッたその後輩こそが良識のないことをやってくれたのだから、一時的に良識を忘れて奇行に出てしまうこともまあしようがないことだろう。
そしてそんな奇行になんの意味もなく、自分が惨めになるだけだと承知して、果ては涙するのだから、その女性もまたちゃんと良識のある大人である。
良識と向き合う
この群像劇に登場する人物たちの多くは、それぞれで「良識」と向き合っている。
恋人のDVや身勝手さにも必死に合わせようとする女性も、家族に後ろめたさを感じながらも常識のないご近所さんたちと付き合っている主婦も、世間からはズレているかもしれない軍オタの大学生も野草に反応してしまう田舎育ちの女学生も、バカだけど誰よりも良識のある恋人を持つ受験生も、虐めにあっている小学生の女の子も、非常識を見逃せないおばあさんも、だ。
自分の生活ややっていることは正しいのか、間違っていないのか? 良識からズレていると思いながら何故抜け出せないのか… 大小関わらずそれぞれに悩みがあって、それぞれで苦しんでいるが、そう悩むのはやはり良識というものが備わっているからだろう。
この「良識」という観点で見てみると、登場人物たちはみなさんちゃんと良識を持っている。それを持っているからこそ、電車内で見かけただけの赤の他人に優しくなれるのだ。
世の中捨てたもんじゃない
たしかに、世の中、良識のないこと、非常識なことが溢れているものだろう。
それでも、赤の他人に優しくなれる人たち、また非常識を注意できる人がいることを知れれば、作中の台詞にあるように「世の中捨てたもんじゃない」と思えるものだ。
そして、その舞台であった電車(阪急電車)の中(駅も含む)というのは、公共の場として良識を守ろうとする空間なのであるのだろう。
現実に電車を利用する人たちも常日頃から良識を持ってそれに逃げずに向き合いながら生活をしていると、たとえ嫌なことがあっても作中のようなささやかながらも励みになる出会いを経験するのではないだろうか。
そう、この映画が言っているようにこの猫の目には思えた。
まあ、私はネコだし、近くに電車もない田舎に住んでいて電車のことはよくわからないので、バスに当てはめての感想であるがね。
いや、公共の場どこにでも当てはまる話なのだろう。
あしからず。