映画ソムリエを目指す猫

〇〇なときに観たい映画をレビューしており候。

『トレインスポッティング』 世間の閉塞感に負けて青春が荒廃した時に観たい映画

トレインスポッティング

 公開:1996年2月23日(イギリス)

上映時間:94分

監督:ダニー・ボイル

脚本:ジョン・ホッジ

製作:アンドリュー・マクドナルド

撮影:ブライアン・テュファーノ

編集:マサヒロ・ヒラクボ

原作:アーヴィン・ウェルシュ

出演:ユアン・マクレガーユエン・ブレムナージョニー・リー・ミラーロバート・カーライルケリー・マクドナルド、ケヴィン・マクキッド

 

あらすじ

プチブル(小ブルジョワ)のような中流階級の一般人には憧れず、ヘロイン中毒になりながら同じくヤク仲間と怠惰な生活を送っているレントン。何度かクスリを断つことを決めるもなかなかうまくいかなかった彼だが、仲間の1人であるスパッドが捕まって受刑者となったことで自分の生活を見つめ直していく…

 

レビュー目次

 

クスリまみれで汚い映画

まだ若いのに主人公やその友人たちがドラッグの中毒者で、暴力事件も起こせば、盗みも働き、演出面でもスコットランド一汚い便所に頭から突っ込んでみたり、学校のPTAが見たら発狂してしまいそうな性交シーンがあったりと、この映画は良識ある一般人からすれば色んな意味で汚い映画であろう。

それら汚いは、私のような猫の目には動物的に映る。

動物界でも若者は年寄以上に本能と欲求のままに動くが、人間でもそれは変らないようだと、そう思った。

私は人間社会で言うところのドラッグをやったことがないので、その危うさのほどはよくわからないが、マタタビを舐めてフラフラになったときの倦怠感はわかるので、怠惰な生活を送るという点にも理解が及ぶ。

一年中家の中でのんびりと暮らしている飼われた家ネコもまた、その生活は怠惰だからだ。

私は基本的に自由に外に出られない身分なので、やれることも少ない。

他人の目からすれば怠惰に映っても仕方がなく、そしてそう言われて否定するつもりもない。

日々、敷居の中で好きにするさ、といった心境である。

そんな私にはなかなか共感を抱けた映画であった。

 

閉塞感

80年代と思われる不景気のスコットランドプチブルへの憧れも失って狭苦しい将来を想像した若者の心の閉塞感も、この猫の目には自由の無い私と同じように見えてくる。
彼らがやれることなんてものも極端に少ないはずであろう。

好きにするさ、とドラッグに手を出してもハイな気分の後に耐えられないくらいの極端なローな気分に陥ってしまう…

クスリを断って女に走ってクラブでナンパしても、SEXした相手が実は中学生だとわかって良心の呵責から再び社会に失望する…
そしてまたドラッグに手を出す…

この悪循環を見ていると、閉塞感の中でもがいてずっと閉塞感から抜け出せない不幸を見ているようで哀れだ。
どこかで私のように達観して、その閉塞感を受け入れることができればよいのだろうが、その本心では未来に希望を抱きたい若者にそれを求めるのも酷というものだ。

良心ある成猫としても、この達観を無理強いすることはできないものである。
では、大人はこんな彼らにどんな助言をしてやれば良いのか?

そう問われても、なかなか一発ですべて救済する神がかった言葉などは思い浮かばないだろう。

私にも無理だ。

せいぜい劇中で両親が見せたように献身的にかつ強制的に体の中のドラッグを抜いてやって、まずは中毒から救ってやることくらいだ。

言葉では解決できないので、行動で救うしかない。

 

それでもスタイリッシュ

 こう荒廃する若者の不幸を描いていながら、しかしこの映画の映像はいわゆるスタイリッシュだ。
汚いと言っておきながらスタイリッシュというのもどこか矛盾しているように聞こえるが、そう思えてしまうのだから仕方ない。

スコットランド一汚い便器に頭から突っ込んでもその先には広い海の中である…
禁断症状から天井に赤ちゃんが這う幻覚が見えているシーンでもBGMとして流れる「Underworld」のテクノ音楽のおかげでまるで視聴している者をもトリップさせてくる…

たとえやっていることが荒廃的であっても、荒廃の中に一縷の美を織り込んで観る者、特に若者の心に共感を植え付けてくるのである。

そしておそらくその美と共感は若者にとっては希望であろう。
作り手側、つまり大人側からすると、その希望でもって慰めとして、その慰めを胸に若者たちの自立を促すことができれば幸いといった所だろうか。
私はもう人間の年齢からすると若くはないネコに属するが、この目にはそう映った。
若者の心情も察すれば、その上の世代の心情も汲み取るような感想を抱く私は、さながら人間社会で言うところの中間管理職のような心地がした。

世の中間管理職こそ一番閉塞感に苛まれていそうなものなので、最初に記したこの映画に対する共感を抱いたとの心境も、つまりはそう言うところから来ているのかもしれない。

あしからず。

 

【参考動画】 


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